これは私が中学1年生の時に我が家にやってきた雑種の雌犬、ナルの話です。

頭も器量もお世辞にも良くはなかったけれど、誰にでも愛想をふりまいて家族だけでなく、近所の人からも可愛がられる犬でした。そんなナルが私は大好きでした。

ナルが10歳の頃、私が仕事先から帰ってくると家族から昼頃ナルが下血をしてかかりつけのどうぶつ病院へ受診したと聞かされました。

ナルはそのまま入院となり、私は急いでかけつけました。そこには横たわるナルの姿。明らかに元気がありません。目もうつろで息づかいも荒く、その姿に私は言葉を失ってしまいました。

担当の獣医師からの話では、おそらく何か猛毒性のあるものを食べてしまったのではないか。それらの毒が肝臓や腎臓に炎症をおこさせ危険な状態だと説明を受けました。急性肝不全、腎不全を起こしていたのです。

昨日の夕方は私がナルの散歩をして、いつも通り元気に帰って来てエサももりもりと食べていたことを思い出しました。なので信じられない気持ちでいっぱいでした。何の変化も感じられなかったからです。

唯一、心あたりがあるとすれば、散歩から帰って来た直後に脱走してご近所さん宅の倉庫に逃げてしまったこと。その時に何か毒物を口にしてしまったのではないか?

そう考えるとどうしてもっと慎重にリードを外さなかったのかと自分の行動が悔やまれました。

しかし獣医師いわく、これほどの激しい症状が出るものはおそらく殺虫剤のようなもので、殺虫剤であれば急激に症状が出るので昨日食べた可能性は低いと言われたのです。

いずれにしろ毒物を口にしてしまったナルの身体は生死の境目にいる状態でした。

どうぶつ病院からの帰り道、いろんなことを思い出しました。初めてナルが我が家に来た日。それからの平凡だけれど楽しかった日々。どの日常もキラキラと鮮明に甦り、私の胸をしめつけました。

どうか、どうかもう一度元気なナルに会いたい!
お願いします、ナルを助けてください。お願いします。

どれだけ祈ったかわかりません。祈ることしかできない夜を過ごしました。
翌日、ナルの様子を見に行くと…

そこにはイキイキとした目でこちらを見つめるナルがいました。しっぽを振って、昨日のナルとは思えないほどの回復ぶりでした!奇跡が奇跡がおこったのだとわき上がる感情で震えるながらナルに近づきました。

 生きている、ナルはちゃんと生きている。
獣医師からも、「やまは越えました。水やエサも食べられるようになりました。」と聞き、とても安心したのを覚えています。

しかし最後に獣医師はこうも言いました。
「こうして今回は回復できましたが、一度腎臓を悪くしているのであまり長くは生きられないかもしれません。」と。

その静かな声はすーっと胸の奥へとおりていきました。

 それからのナルは体調を崩しながらも復活をするを繰り返し、ナルはやっぱり強い、大丈夫だ!と思わせてくれる日々が続きました。このまま元気で長生きしてほしい。それだけでした。

しかし無情にもその日はやってきました。
あの時の獣医師の言葉どおり、約2年後ナルは天国へと旅立ちました。

最期を看取ってやることもできず、仕事から帰って来てたくさんの花に囲まれたナルを見て、声を出して泣きました。悲しみも悔しさもすべてを吐き出すように。

 後日、かかりつけのどうぶつ病院へお礼に伺った時、担当の獣医師よりナルの最期の様子を聞きました。
「最期に一声泣いて、静かに逝かれました」と。

最期に立ち会えなかったのは残念でなりませんが、こうしてずっとお世話になった獣医師やスタッフの方に見守ってもらえたことに感謝の気持ちでいっぱいになりました。

ナル、ありがとう。たくさんたくさんありがとう。
また会おうね。